8/20/2010

『真夏の夜のジャズ』 Jazz on a Summer's Day

58年のジャズ・フェスティバルを収録した同名映画のサウンドトラックですが、ぜひとも映像と一緒に味わって欲しい作品です。
80分に凝縮されたニューポート真夏の4日間。桟橋の先に色とりどりの舟、青い海を走るヨットの帆と飛沫の白、街を縫って走るジープの楽隊。どこをとっても息を呑むような素晴らしいカットばかりです。
オープニングを飾るジミー・ジュフリーのテナーは波間を転がるよう。セロニアス・モンクもリラックスしていながら、たった1小節であっさり私たちの心を攫っていきます。そして全盛期にあったアニタ・オデイ。「スウィート・ジョージア・ブラウン」に続いて歌う「二人でお茶を」のスキャットは冴えに冴え渡って会場を包み込み、場の空気を作り上げていく様子がそのまま目に映るかのようです。ああ素晴らしい!
フレッド・カッツによる無伴奏チェロ・ソナタを挟んだ夜の舞台は”クイーン”・ダイナ・ワシントンの「オール・オブ・ミー」で幕を開き、謎のゲスト、チャック・ベリーのご登場。神出鬼没なダック・ウォークの行き着く先にはルイ・アームストロング・オールスターズ!父よ…。溢れる幸福感に何度でもうっとりしましょう。
マイルズもコルトレーンもロリンズも登場しませんが、フィルムが終わる頃には既にジャズのとりこになっているあなたも、何度となく「ジャズ」に首を捻らされてきたあなたも、きっと真夏の夜の観客になっているはず。

Maria Fumaça / Banda Black Rio

やはりというか1976年デビューのBanda Black Rio、その翌年発表された俺に良しなファースト。
聴けばわかるが「ありそうでなかった!」という感動に囚われること必至。ノンストップで30分間(とはまさか思えぬほどの体感速度で)走り抜ける強壮剤的ブラジリアン・ファンク。誇張なしに一切ダレる隙を与えぬほどに、ひたすら鉄壁のグルーヴを紡ぎ続けるリズム&ブラスセクションであるが、そこに横溢するのは暑苦しさよりもむしろ瑞々しさ。
たゆたう清冽なRhodesの音色がそれに大きく貢献していることは言うまでもない。

あまぐも / ちあきなおみ

大発見!70sのジャンル越境精神が挑戦し、成功を収めた歌謡×クロスオーバーのキメラとしては異形の大傑作『雪村いづみ/スーパー・ジェネレイション』と『いしだあゆみ&ティン・パン・アレイ・ファミリー /アワー・コネクション』ただ二つだけだと思いきや伏兵が。こちらをバックアップしたのは若かりしゴダイゴの面々。
とはいえ作家陣が河島英五と友川かずきで、ポップス耳的には少々厳しい素材であると言わざるを得ないところを、強制ギプス的にソフィスティケイトしている様が、奇形感をいや増す結果となっている。それでもラストを飾る「夜へ急ぐ人」のロマンチシズム&ストイシズムと、解る人には解るこのジャケデザインだけで大傑作!

Fires in Distant Buildings / Gravenhurst

テクノ界最重要レーベルであるWarpの放つロック……といえば、!!!やバトルズ、最近ではNice Niceのようなダンサンブルなロック、というイメージを持つ人は多いと思いますが、ある時はポストロックのようであり、またある時はほの暗い、極上のバラードを聴かせてくれるGravenhurstも、実はWarp所属のロック・バンドなのです。
3枚目のアルバムとなる今作では摩天楼の隙間を漂う狂気を温度感の低いギターとともに歌い上げていきます。音的な目新しさには欠けますが、タイムレスな良作ではないでしょうか。

溶け出したガラス箱 / 吐痙唾舐汰伽藍沙箱

オリジナル盤は1970年のもの。日本初のインディーズレーベルといわれるURCからのリリース。アーティスト名は「とけだしたがらすばこ」と発音する。ジャックスの木田高介、五つの赤い風船の西岡たかし、フォークシンガー斎藤哲夫の三人から成るフォーク・ユニット。
どこに何を形作りたいのかさっぱりわからないバンド名とタイトル通り、ゆらゆらで不安定なのに、どこかさっぱりとすらしている(?)サイケデリックなフォークを聴かせてくれる。
映画「けものがれ、俺らの猿と」のサントラに収録された「君はだれなんだ」は珍曲にして名曲。

Cut Your Throat / Struggle for Pride


既に伝説化しつつある今里率いるハードコアバンドSFPの2009年発売の4曲入りEP。
カヒミ・カリィをゲストに迎えた3曲目、 ホークウィンド「Silver Machine」のカヴァーが白眉で、けたたましいフィードバックノイズと甘美なメロディ、ヴィブラフォン、カヒミ・カリィのヴォーカルの対比は見事。いつもはウィスパーヴォイスが作為的に感じられるカヒミ・カリィだけど、ここではギターのミックスが大きすぎてヴォーカルがあんまり聴こえないのがプラスに働いたと思う(失礼?)。ちなみにフィードバックしたギターの質感はシューゲイザー的というよりもジーザス・アンド・メリー・チェイン的。

Leave Some Space / Ryo Hamamoto

世田谷のスナフキンこと浜本亮。ギター弾き語りを基本にした歌もので、まず繊細な歌声が心地良いのですが、ギタリストとしても活動しているだけあってギターのアレンジが素晴らしい。バンドのアレンジもシンプルながらハイセンスな感じが。ただやはりこの声とアルペジオだけで構築される浮遊感とふんわりした奥行きはなかなか出せない気がします。若手の弾き語り系シンガーとは一味違う、いい意味で冷めたような小慣れ感が好きです。
天気のいい日に芝生にでも寝転んで聴いたら、ひとしきり考え事をしたあとどーでもよくなってビール買って帰るか、みたいな気持ちになります。たぶん。

Heron / Heron

とにかく、冒頭でたどたどしく幕開けする静かな名曲”Yellow Roses”につきる。内省的な詞と、神々しくすらある美しさをたたえたタイムレス・メロディー。70年イギリスの片田舎の空気をそのままにとりいれた一発野外録音が、彼らの無垢なまでの気負いのなさをいっそう際立たせている。ビートルズのアコースティックな楽曲群に着想をえているのか、不思議と泥臭さやルーツ色を感じさせないところもまたいい。
優しい音色とアマチュアな手作り感を愛でる人へ。テンネン代に聴かれるべき木漏れ日フォークとして。