11/03/2010

東ファウンテン鉄道 / the ARRWOS

坂井竜二(Vo) 率いる名古屋出身のロックバンド、the ARROWSのインディーズ1st アルバムにして、初の日本全国展開作品。現在は廃盤。某邦楽ロック専門雑誌を読んで育ったという彼らは、様々な文脈の音楽の要素を巧みに組み合わせ、それでいていやらしくなく、自然と彼らの音楽にまとめてみせる。この1 枚を聴けば、メジャーデビュー後のチャラチャラしたパブリックイメージ(確実に売り出し方を間違えていると思う)とは異なり、実はかなりストイックな実力派バンドであることがよくわかるはず。特に、疾走感溢れるビートにノイジーなギターが乗り、浮いた歌詞でさらりと仕上げたM3「ロックンロールダンシングガール」や、緩急の激しい至高のオルタナロックM4「風待ち」は名曲。隠れに隠れた、来る再評価を待つ邦楽ロックの名盤。 

Single Collection and more / Folder+Folder5

先日、13 年越しにもなる私的再評価が俄然実現したFolder(5については後述) のシングルベスト。幼少の頃ポンキッキーズで耳にしていた頃には気付くべくもなかった、ヤング三浦大知のソウル神童ぶりには舌を巻くばかり。Folder 期におけるコモリタミノル、長岡成貢らによる黄金期SMAP よろしくのPSYCHO ~にグルーヴィーなサウンドプロダクションは珠玉だが、Folder5になってからの軽薄極まる楽曲は申し訳ないが産廃レベル。満島ひかりェ…

Souvlaki / Slowdive

シューゲイザーと括られることが多いけど、空間系エフェクトをかけまくったサウンドはどちらかといえばコクトー・ツインズに代表される4AD 系を引きずっていたSlowdive。そんな彼らの2nd アルバム。まず聴くべきは2nd の本体ではなくリマスター盤Disc2 に収録されている「In Mind」( 元々は『5EP』というシングルに収録されていた)。この曲はエイフェックス・ツインmeets シューゲイザーとも評されたが、実際そう呼ぶにふさわしい名曲。90 年代のロックとテクノの相互乗り入れみたいな作品は今聴くと笑ってしまうようなものも多いが、Seefeel と並んでこれは今でも聴けるどころか未だ乗り越えられていないでしょう。ただしジャケットが謎のダサさ……。なんで?

かまボイラーファースト / かまボイラー

サンボマスター山口隆プロデュース作品。山口隆はコーラスやギターで共演もしている。山口隆がほれ込んだ清水貞信(Gt,Vo)率いる4 ピースロックバンドの1st ミニアルバム。仮面ライダーの怪人の名前から取ったといわれる、一見するとコミックバンドのような名前とは裏腹に、彼らがかき鳴らすのは、鬱ぶった自意識過剰な健康優良児のための邦楽ロック界ではなかなか聴けない、力強くも、どこか懐かしい純真なロックンロールである。M1「ミミタブ」M5「イワナホンドボー」は独特の歌詞にも注目。現在活動休止中であるのが本当に惜しい。

666: Apocalypse of St John / Aphrodite's Child

アフロディテス・チャイルドは後にシンセサイザー音楽や『炎のランナー』『ブレードランナー』などの映画音楽で有名になるヴァンゲリスが1967~1972 年頃に組んでいたギリシャ産バンド。もともとプログレ好きかつヴァンゲリスのファンだったので「ソロになる前に組んでいたバンドかぁ…まあハズレでも良いか」みたいな軽い気持ちで聴いたのだが、これがやられた。この盤は中毒性あります。2 枚組なのになんども聴き返してしまう。これが1971年の作品だってのが凄いなぁ…プログレだからといって別に超絶
技巧だとか、変拍子の嵐だとかそういうわけではありません。単純に良い曲が詰まったアルバムです。よく「プログレ隠れた名盤」と書いてあるのを見ますが、隠れる必要がないと思います。

Rashida / Jon Lucien

柿色バックに、チリ毛に髭。そしてタートル。蒸し暑いジャケの期待を裏切り、さざ波と少女の笑い声で始まる、jon lucien73年の渾身作。故郷カリブ海の薫りを皮切りに(それも適量)、brianwilson もびっくりな旋律と和声。ド70‘s なレアグルーブ。しとしと降るローズ。洒脱なオケアレンジ。純真な恋の詩に潜めた、ニューソウル的反戦歌。ボッサもサンバも。色々ごった煮な、まさに島国気質アルバム。渾々と尽きない発想の波は気持ちいいです。身を委ね、ぼおーっと聴こう。

Hell's Ditch / Pogues

「ケルティック・パンク」なんていうこの上なく胡散臭いジャンルで呼ばれる、いかにも90 年代な怪しさムンムンなこのロンドンのバンドが、アレックス・コックス監督の『ストレート・トゥ・ヘル』のエンディングを担当している、と言えば、西部劇に関心のある方には反応して頂けるでしょうか。あるいは、このアルバムのプロデュースを手がけているのが、若きジム・ジャームッシュと共にその映画に登場するジョー・ストラマーなのだ、などと得意げに言ってしまったら、当たり前すぎて熱心なファンの方に怒られてしまうのかもしれません。しかし、そんな際どいバンドが繰り出す際どい40 分間の終わり間近に突然流れだすリフレインが、ビーチボーイズの『ペット・サウンズ』へのオマージュだと気付いてしまったら、「あんだって?」すら通り越して、もうこのバンドの如何わしさに一時を預けてしまおうと思っても、間違いとは言えない…かも知れません。

Les années 60 / Chantal Goya

もしどこかに人間のいろんな表情を集めた辞典があったら、「物憂い( 女性版)」とかの項に載っていてもよさそうな歌手本人のこの顔は、1 曲でもこのアルバムを聴いてしまうと、どうして私はもっとうまく歌えないのだろうと沈んでいるように見えてしまうかもしれないし、その同じ歌手が「私、日本で6 位よ!」なんて言ってるフランスの映画が1966 年製作だったなんてことを知ったら、日本のチャートがズレてるのは今に始まったことじゃなかったのか…、とますます不安になってしまうかもしれませんが、結局のところ、美人がお洒落と手を繋いでしまったら、見とれてしまうか歯ぎしりするかのどちらかしかないのです。シルヴィー・バルタンやフランス・ギャルだけでは物足りない人も。

Kestrel / Kestrel

某氏に先に発掘されたことが悔しくてたまらない、70 年代クロスオーバー精神を愛する私やあなたの既成概念を拡張してくれること間違いなしの奇跡的音源。まるでタイムトンネルを通じて古今東西のグルーヴィンなバンドサウンドの髄が溢れいで、ひとつの豊潤な音楽世界を連綿と紡いでいくような…。” ポップス的感性” を軸足に、広く深く音楽を聴いている人ほど、その強度は増して感じられるだろう。

Skullgrid / Behold...The Arctopus

エクストリームミュージック界をリードするベーシスト、Colin Marston が参加しているNY のメタルコアバンドの3 枚目。構成はギター+ 12 弦ベース+ドラム。最初から最後まで圧倒的なテクニックが乱舞する一方で、テクニックを披露する媒体=曲ではなく、曲そのものの完成度にこだわりが感じられるのが好印象、というか実際良い曲が多い。キメキメのメタルリフが本当にキマってるM2「Canada」や、ドゥームとメタルコアのスタイルを自在に行き交いながら、リバーブで間合いを聴かせる余裕を見せるM4「You are Number Six」、もろプログレ化するM6「Transient Exuberance」など、幅広い音楽性を難なく取り込んでいるところはさすが1 流ということだろうか。自然なライブ感とテクニックを余すことなく聞き取れるクリアネスを両立させた録音も素晴らしい。

Seek Magic / Memory Tapes

出た当時はただの「清涼なディスコ」だったのが、いつのまにか「2009 年のベストGlo-fi !」に格上げされた、ニュージャージーの Dayve Hawk (a.k.a. Memory Tapes) の1st アルバム。生音系の質感はもろBoards of Canada を感じさせるが、そこに遠慮しないディスコ・ビートや、歌えるボーカル、弾けてるシンセを違和感なく融合させてしまうのは、彼の卓越したセンスを感じる。サウンドプロダクションも秀逸で、ナチュラルで奥行き感も感じさせる音質は特筆に値する。さまざまな面でFlying Lotus のLos Angeles と好対照をなす1 枚だと思う。

Fluxus Anthology / V.A.

絶叫パフォーマンスの記憶も新しいオノ・ヨーコ等が参加していた芸術運動フルクサスのコンピレーション。ナム・ジュン・パイクやラ・モンテ・ヤング等参加しており、フルクサス関連グッズとしては入門的な位置付けかと思われる。「Imitating TheSound Of The Birds」という口笛で鳥の鳴き声を真似る作品があったり、『狂気のオルガニスト』オノ・ヨーコの参加作品が「ToiletPiece」だったり、笑えるものばかりで飽きずに楽しめる。ライナーノーツの代わりに主謀者ジョージ・マテューナスによるアートマップ付き。