6/26/2012

Zawinul / Joe Zawinul

ジャズに初めてエレピを持ち込んだ(とされる)ピアノ奏者、Joe Zawinulの1971年に発表されたソロアルバム。彼はWeather Reportのメンバーでもあり、Miles Davisの"In a silent way"、"Bitches brew"といった傑作にも参加している。このアルバムの各曲には副題がついていて、「船でフランスからニューヨークに来たときの第一印象」などのように、過去の瞬間においてZawinulが見たり、感じたりしたことを追体験する、というのがコンセプトになっている。セッションプレイヤーのソロ作というと、単にリーダーが派手なソロをひたすら弾き倒すだけの作品が多い気がしてしまうのだが、このアルバムには全くそういうところが無い。 Zawinulのピアノは全曲を通して控えめではあるのだが、単なるエレクトリックジャズに収まらない、内省的かつ幻想的な音楽を展開している。フュージョンっぽかったり、また現代音楽の要素もあったりと、一言でこの独特なサウンドを表現することはできないが、とにかく聴く人の印象に残る作品だと思う。

Sound / Electric Glass Balloon

現SUGIURUMN・杉浦英治がボーカルを務めていたバンド。この前Youtubeで検索してみたら素人バンドがライブでカバーしてる映像しか出てこずびっくりしたが、デビューから6年で解散しているので、そんなものかもなぁと思ったりするが、僕は後追いなので単にライブ映像が観れなくて残念という程度のものなのだが、ががが。Teenage Fanclubと近いと言われたりするけれど、とても渋谷系的なギターポップ。フリッパーズとかとも近い。

STAn / STAn

「結局STAnとstonesだけが全てに絶妙な距離保ってる/色んな奴が色々言っても 言っとくけどさ 一個もあってない」(#1.After all)最高の歌詞だと思った。メジャーとの契約が切れ、インディーズでうだつの上がらない活動を強いられてきたスリーピースロックバンドの最高の復活宣言だった。聴けばそれとわかる独特なギターリフ(弾きながら歌えるのが信じられない)と骨太なリズム隊の絡みに粘っこいボーカルが乗るサウンドはそのまま に、以前からのシニカルな自己肯定の果ての激情の表現がより洗練されていると感じた。どんなバンドも、ひとたびデビューすれば「○○系」とか「○○フォロワー」といったように括られ好き勝手に評価される時代において、STAnはその全てを突き放し、本気で「いいよ そんなんどうでも」(#2.Rough diamond future)と究極的な自己肯定を歌う事ができる唯一のバンドだったと思う。このアルバムと配信シングルのリリースを最後に彼らは突如解散してしまうが、一度ダメになったバンドがもう一度這い上がろうとする一瞬のきらめきが惜しみなく詰め込まれている。無名なせいで旧作もきちんと評価されていないのが 残念。再評価を待つ。

City Life / Steve Reich

Come Out、It's gonna rain、Piano Phase等、漸次的位相変異プロセスと言われる、要するに段々ズレていく音楽から、徐々にフレーズに音が足されていき、更にそれに音符一つズラして追いかけるフレーズが重なり・・・という加算的な音楽に変化、そしてその後人の声や環境音をサンプリングし、そのサンプリングされた音を楽器が真似る等の手法の進化の先に生まれた作品。というような話は一旦置いといて、とにかく聴いてみてください。夜寝る前に聞くときっと良い夢見れる。

忘れてもいいよ / すきすきスウィッチ

佐藤幸雄はなんて素晴らしい歌を作る人なのだろうか。本作の音質はとても良いとは言えないクオリティだが、その音質の壁を突き抜けてリスナーの心を射抜くだけのモノが彼の歌にはある。すきすきスウィッチの現時点で唯一の作品である『忘れてもいいよ』にはテクノポップな初期、フリップ&イーノみたいな中期、鈴木惣一朗とのギターボーカル&ドラムボーカルのデュオ体制になった後期と全時代の音源が網羅されている。スタイルこそバラバラだが、いずれの時代も佐藤幸雄の歌が核になっていることは間違いない。先日なんと20数年ぶりに再始動することが発表されたすきすきスウィッチ、今後の動向に注目です。

Lucky Hands / Thomas Brinkmann

ジャーマン・ミニマルの大御所であるThomas Brinkmannの13枚目のアルバム。もともと実験的なテクノ作品を多く発表していたが、最近ではオーストラリアの前衛ギタリストOren Ambarchiとコラボするなど、活動の幅は広がる一方のよう。本作Lucky Handsではそんな彼の実験性とファンクを再構築した音楽性が高い次元で結実している。「太いキックを鳴らしとけばノレるだろ」と言わんばかりの雑な一次元リズムの曲は勿論無く、上物・ビート・余韻までも含めた全ての音が一体となり一つの多次元リズムを構成していると感じられる希少なテクノ作品。多くの音の繊細なバランスの上に成り立っているので、気に入るかは再生環境次第かもしれない。

Night Through / Loren Mazzacane Connors

NY地下シーンの即興ギタリスト、Loren Mazzacane Connorsのシングルと未発表音源を収録した編集盤。ジャンルは一応アンビエントとか実験音楽ということになるのだろうか。この人は大変な多作家であり、すでに50枚以上アルバムを発表していて、過去にはJim O'rourkeやDavid Grubbs、灰野敬二などとコラボした作品もある。大体どの作品も一本のギターを爪弾いて鳴らされたアルペジオやドローンだけで構成されている。器用なギタリストではなく、そもそもパーキンソン病を患っているので、普通の人と同じようにギターを弾くことすら出来ないらしい。しかし、彼によって鳴らされる音色はこの上なく感情的であり、とてつもない哀感に満ちあふれている。流れてくる「音」そのものにこれほどまで感銘を受けた音楽は他に無かったと思う。廃盤になってしまっている作品も多い中で、この編集盤はそこそこ手に入りやすいようである。

French Cafe / V.A.

例えるならば、このアルバムは、フレッシュネスバーガーでライムソーダを飲みつつ聴きたいアルバム。少しだけオシャレを気取りたいときに是非聴いていただきたいと思う。オススメは7曲目のウィスパーボイスで聴かせるCoralie ClementのLa Mer Opale。彼女はまさにフレンチ・ロリータという言葉がよく似合う。そして、スウィングを感じるアップテンポな11曲目SanseverinoのMal O Marins。彼は仏版グラミー賞を受賞したことのあるアーティストで、舞台俳優を目指してみたり、バンジョーを弾いてみたり。このアルバムを聴いてオシャレを気取るもよし、またはフレンチポップへの架け橋にするもよし。このPutumayoレーベルのCDたちは、ワールドミュージックビギナーにオススメです。

Einstein on the Beach / Philip Glass

ミニマルミュージックの代表的な作曲家であるフィリップグラスの初期作品。『浜辺のアインシュタイン』というオペラのために作られた楽曲。テーマは進歩と静止、そしてそれらの交錯。フィリップグラスの作曲の特徴は、加算方式と呼ばれるものである。あるパターンを繰り返し、そこにもうひとつのパターンを加算し、新たなパターンを作る。それに対して、さらに新しいパターンを加算する。その繰り返し。慌ただしいパターンの変遷、まくしたてるようなボーカル、暴力的な音の繰り返し。人類の歩んで来た道、あるいは歩んで行くであろう道を早送りで見せつけられているような恐怖感。その速すぎる流れに一人取り残された恐怖感。

言葉にならない、笑顔を見せてくれよ / くるり

いやぁ、くるりも大人になりましたね。今回は簡素なアレンジだからこそ歌のメッセージがすっと入ってくる、歌を大切にした歌謡アルバムになっています。 ユーミン参加曲(#7)も収録。今までのくるり(特に岸田繁)を考えると「こんな力みの無いポジティブな曲を書いてくるなんて、よくここまで来たなぁ」 と、ファンとしてグッとキますね。カッコイイ音楽ももちろん良いけど、カッコつけてばかりじゃ疲れるし…たまには素直に、純粋に「歌ってええなぁ。」と思える幸せをこの一枚は与えてくれます。くるりからのメッセージはアルバムタイトル『言葉にならない、笑顔を見せてくれよ』の通り。みなさん、もう悲しいストーリーに依存するのも飽きてきたのでは?そろそろ日常のきらめきに目を向けてみてはいかがでしょうか。“温泉”(#5)はアンセム。ジャケもブックレッ トの写真も必見です。昔のヒリヒリした感じが好きだったという人も、是非久しぶりに聴いて欲しい一枚。もちろん、この作品からくるりをフォローするのも大 アリです。

Chiaroscuro / Einar Stray

1990年生まれ(筆者と同い年!)のノルウェー人ピアニスト/シンガー・ソングライターEinar Stray(アイナル・ストレイ)を中心としたバンド。紹介文には「スフィアン・スティーヴンス + シガー・ロス」なんて書いてあって、正直「どうせ猿まねポストロックなんだろうな」、と思って聴いたのを覚えている。しかし、じっくり彼の音楽を聴いて、その考えを改めることになる。確かに、先の文章に上がったバンドの影響を受けてはいるけれど、アイナルの音楽は、彼の出自が「myspace」であったことが象徴しているように、インターネットで世界中の様々な音楽を吸収した上で理知的に流麗な世界観を構築している一方で、近所の楽器ができる仲間で何となく音を出していたらいつの間にかできあがってしまったかのような手触り感も残されているように感じる。インターネットの理性と、トラディショナルで土着的な繋がりの持つ温かみの共存。同い年で、こんなに綺麗で温かみがあり、神経質でない軽やかな作品を生み出せる才能とネットワークにただただ驚くばか り。#2.Yr heart isn't a heart、#6.Arrowsが名曲。

ヒカリモノ / 及川光博

ご存知、ミッチーこと及川光博が2004年にリリースしたアルバム『ヒカリモノ』。彼というと俳優業のほうが目立つ節があるが実はもともとバンド活動からの歌手デビューが先だったり自ら作詞作曲も行うなど(このアルバムの殆どの曲は他者からの提供だが)歌手活動にもかなり力を入れているようだ。その音楽性は本人がプリンスのファンを自称しているようにJpop界での正統な(?)岡村靖幸フォロワーといえる。その徹底したキャラクターと独特のねちっこい歌い方がたまらない。日本音楽会随一の伊達男、及川光博の旨みを十分に味わえるアルバムである。バスローブを着てシャンパンを開けながら聞きたい一枚。

Room With Sky / John Hudak

「この作品の背後に持つアイデアは、聴き手が晴れた日に日当たりの良い部屋にいる様な感覚を伝えることです。」私の部屋はあまり日当りは良くないが、実際に良く晴れた日に部屋に引きこもりこの曲をかける。ガラス一枚で隔てられた外の世界がひどく遠く感じる。神秘的で掴み所のない音がただただ揺れている。外には素晴らしい世界が待っているというのに、なぜ引きこもっているのだと暗澹たる気持ちになる。そうしてる間も、音は揺らめいている。この掴み所のない音をしばらく聴いているうちに、空間や時間に対する認識や自己という認識が虚ろになり、すべてが輪郭を失う瞬間に出くわす。その瞬間から自我が境界線を持たなくなり、作者のいう”感覚”と自己が未分状態になる。ジャスト60分一切の起伏がないこの曲のクライマックスは輪郭を失った自己とその”感覚”が混じり合い、一体になっていることが意識できたときに訪れる。

日本の笑顔+水に流して / ヒカシュー

シングル『日本の笑顔』とアルバム『水に流して』を1つにまとめた再発盤(1984年当時も1つにまとめる予定だったが、諸事情によりできなかったとか)。『日本の笑顔』の4曲はテクノポップっぽさが残っており、特に表題曲はファンの間でも人気がある(らしいです)。『水に流して』では、ヒカシュー版 サーフミュージック(?)あり、ニューウェーブの影響を受けたと思われる曲ありと、『うわさの人類』でみせたロックよりな路線かと思いきや、後半につれジャンルわけできないヒカシュー独自の音を鳴らしてます。メンバーが変わったこともあり、ちょうどヒカシューの過渡期といえるかも。なんだかアルバムとしてのまとまりはないというような書き方をしてしまいましたが、曲は本当にかっこいいです。ヒカシュー=テクノポップという人に是非聞いてほしいアルバム。