3/24/2012

無惨の美 / 友川かずき

多数リリースのある氏には傑作とうたわれる作品は何枚かあるけれど、自分はまずこの一枚を推したい。弟の死を歌うタイトル曲や、消えていく故郷を描いた 「井戸の中で神様がないていた」など、80年代という喧騒に押し潰され、負けて死んでいったものたちへの小さくて壮大な、刺すように美しい鎮魂歌が並ぶ。 1985年リリース。

Flagment Of Paradise / 杉本拓

フィリップ・ロベール著「エクスペリメンタル・ミュージック」のなかで沈黙のギタリストとして紹介されていた杉本拓は現在既に無音の演奏から方向転換して いるが、無音の演奏を始める前は音響的即興といわれる類の演奏を行っていた。「Flagment Of Paradise」は杉本が音響的即興を始め、その可能性を探っていた時期の代表作である。この後杉本は、突如としてステージでほぼ音を出さない、という 演奏スタイルに変化し、今では即興演奏自体を全くと言っていいほど行っていない。杉本は興味を音自体からコンテクストに移し、現在は作曲によってそれにつ いての実験を重ねている。

JUNK LAND / 玉置浩二

もしあなたがこのページに目を留めるぐらいには音楽が好きで、玉置浩二を単にオンナとイチャイチャしているだけのチャラいオヤジだと思ってILLのならば考えを改めるべきだ。彼は実際のところ、超・実力派のシンガーソングライターなのである。本作『JUNK LAND』は彼の脂が最も乗っていた90年代後半のアルバムで、特に1曲目の「太陽さん」は信じられないくらいの名曲。こんな曲作れたらそりゃ青田典子とイチャイチャできるよな…(結局そこかい)。アルバムカヴァーも産業廃棄物にあふれた不毛の地に1つ生える植物を、真っ裸の玉置浩二が掴んでいるという衝撃的なモノ。そんな大胆なことするからまた皆から誤解を受けるのに……。これの前作『CAFE JAPAN』もクオリティの高い名盤なのでチェックするべき。

Moenie and Kitchi / Gregory And The Hawk

ウィスパー系女性ボーカルファン必聴の1枚。アコースティックギター中心のフォーキーなサウンドに、メレディス・ゴドルーのキュートで、でもちょっぴりメランコリックな歌声が素晴らしい作品。今作から、マイスパレードのアダム・ピアースがプロデュースに加わり、従来のフォーキーなサウンドに、シューゲイザーテイストのキラキラしたサウンドが加わった。ジョアンナ・ニューサムやイノセンス・ミッションが好きな人におすすめな1枚。ジャケット通りのキュート でメルヘンな世界が待ってます。

SCUBA / P-MODEL

今年の春に出た名著『宅録ディスクガイド』に一つだけ文句をつけるならば、この作品を取り上げなかったことだろう(ヒカシューの『1978』は載っていた のに!)。1984年にカセットブックという形態で発売された本作は(同梱されたブックレットの内容も含め)間違いなく現在の平沢進の「原形」かつ「元型」である。他のメンバーを殆ど参加させず、平沢がソロ作品のようなスタンスでユング心理学にアプローチ。自宅録音に近い環境でレコーディングしたためP-MODELのオリジナル・アルバムにはカウントしにくいが、楽曲のクオリティはメチャ高い。現在では中古市場に賭けるか、3万円するボックスセットを購入しないと聴けないレア盤。後に平沢がCDで作り直したバージョンが2つある(これらは入手が比較的容易)が、遠藤ミチロウのナレーションが入っているのはカセット盤のみということもあり、やはり最高は最初のこれ。

Relax / Das Racist

ブルックリンの3人組ラッパーの1stアルバム。(うち1人はステージ上でコンピューターのキーボードを振り回してアジるだけ……という映像もあるが)こ れまでネット上で2枚の、ミックステープと呼ぶにはあまりにも完成されたアルバムを無料でリリースしているので実質3rdアルバムと呼ぶべきだろう。ナン センスさの中に社会への批判を詰め込んだリリックと、インディダンス・ディスコ的な、万人に開かれた雰囲気を失わないバックトラックが素晴らしい。個人的 には、強迫症的なtr.1、Diploがプロデュースしたミニマルなtr.7、音の案配が絶妙なtr.9がお気に入り。マスタリングがあのスターリングサ ウンドというのもポイント高。

season / season

最近活動を再開したseasonの1stミニアルバム。日本エモ界の名盤的な感じで紹介されてるのをたまに見ます。(日本エモ界自体には全く詳しくないし、そもそも日本エモ界なんて言葉自体存在しないが)一曲一曲も短いし、曲数も少ないのでアルバム通して聴きやすい。そして、どの曲もメロディーが凄く良 いです。泣きながら笑顔で叫んでいるような歌声も魅力。長らく廃盤の憂き目にあっていましたが、1stフルアルバムの発売に合わせて再発するようです。しかし、フルアルバムまで10年とは・・・。

アンダーグラウンドパレス / 豊田道倫&ザーメンズ

パラダイスガラージ=豊田道倫から2011年1月1日に繰り出された一枚。全曲弾き語りだった前作「バイブル」とは違って、前々作「ABCD」での昆虫キッズとのコラボが内面化、昇華されたような、荒々しい作品となっている。特にタイトル曲「アンダーグラウンドパレス」の狂気は本物。「西成、26時」の ような美しい曲もそっと置かれている、ウェルメイドなロックアルバム。

HOSONO HOUSE / 細野晴臣

ある音楽を聴いているとき、その音楽とその瞬間の気温や湿度や景色など、要するに季節感のようなものが「合致した」ような感覚になることがある。そしてそうなった音楽はしばらくの間自分の中で無敵状態になる。ずっと前から持っているこのアルバムに今月はとても頻繁に手を伸ばした。この感覚の要素のいくらかは詞の内容(ここでは冬越えなど)で説明できるだろう。でもそれだけでは説明できないもっと直感的で曖昧な心の作用のようなものがきっとあるような気がする、というかあるとおもしろい…って全く曲とかアルバムの説明をしてないわけだけど、この紙を手にとったあなたならもちろんこのアルバム聴いてるよね!ってことで許して…

The Honeybunch TV Show / Hairsalon

こやまだいち氏の宅録1人ユニットHairsalonの唯一のアルバム。2005年作品。温かみのあるカラフルなジャケットもこやま氏によるもの。これをジャケ買いせずに何をジャケ買いするのか。ソフトロック、AOR、JAZZ、A&Mサウンドなどを基調にしたシンセ・ポップに凝ったアレンジ、中性的、匿名的なボーカル&コーラス。このアルバムを通して感じられる冬っぽさはリバーブやシンセの音のもやっとした感じがそうさせるのでしょうか。少し肌寒い頃にマフラーをして聴きたいアルバムです。

... Like Nothing Else You Ever Tasted / Bobbie's Rockin' Chair

単にパーフリ、渋谷系フォロワーみたいに語られがちなBobbie's Rockin' Chair。しかし彼らほどソフトロックを愛し、実践したグループは他にいないと思う。このアルバムは以前に出したEPをまとめた編集盤で、韓国 Beatball Recordsよりリリースされました。レコード好きな人たちがバンドやってみましたって感じがいいです。男女混声パパパコーラスに感涙。

くまちゃん / モダンチョキチョキズ

邦楽史上最大規模の器用貧乏コミックバンド(?)モダチョキの4枚目にして最後のオリジナルアルバム。面白いんだか面白くないんだかよくわからないままに繰り出される数々のネタ、ジャンルレスで妙にハイクオリティな楽曲と、次々に入れ替わるメンバー等、油断してかかると消化不良間違いなしの詰め込み過ぎな一枚。これはもちろん、褒め言葉。アルバムの最後に予告されている次回作のリリースを待ってます!1994年リリース。

There's Nothing Wrong With Love / Built to Spill

アイダホというとポテトを連想する人が多いかと思います。僕もです。USインディー界で異彩を放っているらしいが日本での知名度は寂しいアイダホ出身のバンドBuilt to Spillの2枚目のアルバム。良メロと少しサイケデリックなギターサウンドが特徴的なバンドだがこのアルバムではポップ分がより前に出たサウンドになっ ている。次作「Keep It Like A Secret」(1997)でその地位を確固なるものにしたらしい(もちろんこちらも超名盤)、彼らだがインディー時代のこのアルバムでもそのポップセンスは抜きん出ており、メジャー時代に比べると音が荒削りではあるがその分、曲の良さが引き立っている。4曲目の「Car」に代表されるようなメロディアスで甘いボーカルに不安定なギターのアンサンブルが微妙に絶妙にズレていてこれがとてもクセになる。良き90年代のちょっと田舎くさい、ひねくれたギターポップ。

Ames Room / Silje Nes

ノルウェー出身のいまいち読み方に自身の持てないシンガーソングライターSilje Nesの2007年にFat Catからリリースされた、1人で全ての楽器を扱った自宅録音アルバム。彼女のデビュー作である。その端正なルックスからか歌姫的なポジションで扱われるがその才能は確かである。Nadjaみたいなアートワークとは裏腹にとても繊細なウィスパーボイスとアコースティックに様々な音が加えられ、それぞれが魅力的で落ち着きのある雰囲気を作り出している。ジャンルこそエレクトロニカという分類をされるもののリコーダーやおもちゃのような音、よくわからない効果音が録音されており遊び心たっぷりな気もするが絶妙にマッチ。ファナ・モリーナとよく比較されることが多いが、より自然でやさしい音響はまさにノルウェイの森である。曲が複雑なわけではないがとても深みがあり洗練されている印象を持つ。2010年には二枚目となる「Opticks」がリリースされ、ジャケットは相変わらずハードコアな匂いを漂わすもののこちらもオススメ。

A Forest Dark / Satan is my Brother

ミラノの6人組ダークジャズバンドの2ndアルバム。1911年にMilano Filmsで作成されたL'infernoという無声映画の仮想のサウンドトラック、というコンセプトの作品。(初回100枚にはこのL'inferno のDVDがついてくるのだが、英語の字幕がついていても得体の知れない作品だった。)ダークジャズというとBohren & Der Club of Goreのようなグワーッと重くてアダルティな感じの音を思い浮かべる人も多いと思うが、こちらはずいぶんウェットな音で、37分という短い尺の中でも豊かな世界観を感じさせる。地味なようでスルメ的中毒感を持つ音響を作り出したのは、やはりミラノの若手音響作家であるAttila Faravelli。

... And The Ever Expanding Universe / The Most Serene Republic

Broken Social Scene及びそのメンバーたちのバンドが所属するカナダのレーベル、Arts & Craftsの男女7人組バンド。レーベル初のBSSメンバーではないバンドだそうです。(BSSは最大20人越えらしいですが何人おんねんと言いたくなります)。大所帯でカナダというとまさに先述のBSSやArcade Fireですが、カブってるという感じはあまりせず独自の雰囲気を持っています。クラシカルな室内楽かと思いきやきらきらシンセの四つ打ちが出てきたり轟 音ギターもちゃっかり入ってたりしますが、一貫してグッと来るメロディがあることでただ突飛なことをやっているという印象は無いと思いました。いわゆる 「ポップでローファイ」という枠からもいい具合にはみ出した感じがとても好きです。