12/17/2012
Jordan: The Comeback / Prefab Sprout
「ネオアコ」という言葉は一部の人々が抱えている曖昧な「青春性」とあまりに結びつき過ぎている。この日本国内でのみ通用するワードが、80年代の(特に英米の)音楽を現在から理解する際に障壁となってはいないか?海外のページを注意深く観察していると「Sophisti-Pop」という概念にぶつかる。Aztec Camera、The Blue Nile、Scritti Politti、Prefab Sprout、The Style Council、Swing Out Sister、Orange Juice、Sade、Everything But The Girl などなど……これら全てのグループが「Sophisti-Pop」の名のもとに集約されている。こっちの方が変な恣意性がなくて分かりやすいと思うのだが…ということで選んだSophisti-Popの大名盤。(1990 CBS)
kings / Kuhn
ブルックリンからの!若干24歳の!新進気鋭ビートメイカー!なんて、ありがちなイマっぽい肩書きを引っ提げたKuhn(キューン)。いつからかやけにSynth回帰 / Sweet Soul回帰が目に付くビートシーンに、異常な"臭み"でカウンターを仕掛ける彼の3作目が全曲素晴らしい。LuckyMeの朋友Obey Cityとの共作である"I Quit"はまさに先述したような売れ筋ど真ん中のアンセムトラックなのだが、後に控える3曲はいずれも癖の強い臭いを発している。捻くれたサンプル構築+複雑ながらもスマートなJukeビートで、ラスタに留まらず中東以東のトラッドの影響も感じさせる。過加工なコーラスが積み上げられた"Never Forget"はバッドトリップ感全開だし、"NWYRK"はWagon Christを現行ビートフォームでアップデートした様で非常に痛快だ。結局国内外でFootworkバブルはあっという間に弾けてしまったし、Trapの浸透にも不器用さを感じて心配してしまうけど、こういう頭の螺子が外れた音楽家はいつの時代にもどこかしらに自然発生するので、僕らも獣臭に鼻を利かせていかなくてはならない。(2012 CIVIL MUSIC)
Icky Mettle / Archers of Loaf
91年結成、米ノースカロライナ出身の4人組による1stアルバム。彼らを紹介する際、USインディやローファイという共通点からかペイブメントが引き合いに出されることが多い。ただペイブメントが肩の力を抜いた、少しひねくれた感じであるのに対し、アーチャーズオブローフは個性的なヴォーカルが聴く者の心を揺り動かす、エモーショナルな一面を持っている。全体に漂うやるせない空気がなんとも言えない。2ndアルバム「Vee Vee」も名作だけど・・・やっぱりこっちで。(1993 Alias)
AQUA / 佐藤博
2012年を振り返って、山下達郎と松任谷由実のベストアルバムリリースもそうだが、いわゆるシティポップスというものが最注目されていたように感じた。そのような年に佐藤博がなくなったのはとても印象的であった。ティン・パン・アレイへの参加でも知られる彼はまさに日本のポップスが色づく時代を作り上げたその人である。彼のソロ作にはこだわり抜かれた多重録音によるサウンドプロデュースがある。本作でも彼の代表作「awakening」(1982)で魅せたメロウな「シティ」感に加えオリエンタルな響きが相まり、そのオリジナリティを高めている。当時の最先端だった音像は今聞いても全く衰えていない。(1988 アルファ)
Flower bed / 渡辺美里
渡辺美里5thアルバム。小室哲哉、岡村靖幸、佐橋佳幸、大江千里等作曲家陣が超豪華。
良い曲だらけなアルバムですが、特に聴きどころをあげるなら、渡辺美里作曲の「やるじゃん女の子」。なんでセリフ終わりでいきなりマイナーにいくのか。怖いよ、それが彼女の最後の言葉だったみたいな感じするじゃん。(1989 EPIC)
It's Your World / Gil Scott Heron & Brian Jackson
昨年(2011年)5月逝去した事も多くのソウル・ ファンには記憶に新しい、ギル・スコット= ヘロンとその盟友ブライアン・ジャクソンによるライヴ盤。 CDは2000年にリリースされ、ソウル、ファンクのファンは
勿論、 レアグルーヴやヒップホップ等多方面から熱いリスペクトを受け続 け、 逝去時にはラップの先駆者として毎日新聞に訃報が載ったという、 レジェンドの名にふさわしいギル爺の名盤中の名盤である。 彼の元の父はキューバ系のサッカープレイヤー、母はオペラ歌手、 離婚後の母の再婚相手はプエルトリカン、 少年時代をプエルトリコ系コミュニティの中心地であると同時に、 ビートニク文化の中心地であったNYのチェルシーで過ごすなど、 後の音楽性への強い影響の伺うことのできる出自を持つ。 表題曲は、この世界に生まれてきたのだから!自由を! という広大でアツいメッセージを、 民族意識などはたはた薄い大和民族の一小娘にも感じさせてしまう スゴい曲。2曲目以降続くラテン・ ジャズな楽曲からにじみ出るのは、プエルトリコやアフリカン・ アメリカン、 つまり米における人種的マイノリティとしてのアイデンティティの 誇示。 聞きやすくオシャレな曲に鋭利でラディカルなメッセージを挟みつ つ、ポエトリー・リーディング、 最早ラップのようなトラックを入れてくるあたりも彼が「 黒いディラン」と呼ばれる所以である。Esther Phillipsのカバーでもソウルファンには身近なHome is where the hatred is、それからPaul WellerやJoe Bataanなどのカバーでも有名なThe Bottleも、このライヴでは曲中盤にて、 オリジナルバージョンのわりとクールでさりげないイメージをこれ でもかと裏切り怒号のように繰り広げる、 プエルトリカン的血湧き肉踊るリズム隊のソロは、 鳥肌モノで感極まること請け合いである。リリカル・ テロリストな彼の音楽から発せられる重い詩のパワーの洗礼を受け る事は、全ソウル・レアグルーヴ・ ヒップホップファンの使命ではないだろうか。
(1976 Arista)
(1976 Arista)
The Vault: Old Friends 4 Sale / Prince
100年後 / OGRE YOU ASSHOLE
DTM・DAW・インターネットの発展が容易にしたもの、それは「音楽制作」ではなく「努力」だった。簡単に努力ができるようになった時代において、改めてエジソンの言葉を思い出すならば、クローズアップするべきは「1%のひらめき」である。「100%の努力」で作られた音楽にも美しさはあるが、しかしそれが市場に流通し過ぎている感は否めない。さて、問題はオウガ・ユー・アスホールの現時点で最新のアルバム『100年後』である。前作『homely』も良かったのだが、まだ微妙に「努力で作ってる感」があったのに対し、『100年後』はどう頑張っても努力だけでは作れないアルバムだ。と同時に、ある音楽が「フォロワー」を生むためには「ひらめき」が必須である事を実感させてくれる。彼らがデビューした時にはまさかこんなモンスターバンドになるとは思っていなかったが……。(2012 Vap)
The Time Has Come / Anne Briggs
60~70年代初期を中心に活躍した英国出身のフォークシンガーAnne Briggsのセカンドアルバム。木漏れ日フォークと呼ばれるフォークとは対照的に森の奥でひっそりと歌われているような印象を受ける作品(ちなみにこの作品の邦題は『森の妖精』)。ギター1本をバックにして素朴に、そして淡々と歌い上げている。素朴という点では同年代の英フォークシンガーVashti Bunyanと似ている。しかし、その淡々と歌い上げる様は俗世間と距離を置こうとする意思表示のようであり、まさに『森の妖精』のような存在であり続けている。(1971 Topic)
METZ / METZ
カナダ出身の3ピースロックバンドMETZ(メッツ)が名門レーベルSUB
POPから放ったデビューアルバム。ノイジーなギターと分厚いドラミングが初期のSUB
POPやNOWAVE系のオルタナティブ志向のバンドたちを連想させるが、彼らの新しさはハイファイな録音環境に裏付けられた異様なドラムのリバーヴと怒気溢れるボーカルの咆哮の凶暴性にあると思う。skrillexなどのダンスミュージックに流れた音楽ファンを再びロックの狂騒の中へ呼び戻すのは彼らではないだろうか。タイトル通り頭痛を呼び起こすような(?)ドラミングが光る#1 Headache、奇妙なPVが良い味を出している#7 Wet Blanketがオススメ。(2012 SUB POP)
Meltdown / Ash
これはキッズによるキッズのためのキッズミュージックです。だからって舐めてかかる奴は俺がぶち殺します。Ashを時代遅れのロックと言う奴らを、俺は一生涯許さない。でも名作です。「1977」も「フリー・オール・エンジェルズ」も最高ですが、何故にこれを選んだかというと、この後割とすぐ脱退しちゃうシャーロット・ハザレイのコーラスが最高だから。なあ、一体これ以上俺に何を言えっていうんだ?まさるくんとも話しましたがムサい男3人のアッシュなんて全然好きじゃあないんですよ。それまでのドキドキするようなポップパンクとはうってかわってかなりヘヴィ&ダークな路線を示したアルバムで、ティムお得意の炎上ギターがブイブイいっておりギターキッズ冥利に尽きますね。同時期のMUSEとかにも通じる?切ない系UKヘヴィロックな感じもあって非常に涙腺を刺激されます。特に「Evil Eye」なんて聴いてると、ううううそうか、あいつ目つき悪いんか、ああああんちゃんがしばいたるけえ安心せえって気持ちになります。「Vampire Love」の駆け抜ける焦燥感も聴きながら待ってろ!今俺が助けてやるぜって感じの気分になって意味もなく帰り道に走り出したりします。とりあえず大好きなアルバムですみんなにきいてほしい。あとボートラのバズコックスのカバーは足腰立たなくなった元パンクスのジジイも踊り踊り出すような素敵なものになっておりますので、コイツらパンクがわかってねえわっつって聴かずに飛ばすような奴も俺がぶち殺します。(2004 Infectious Records)
Music Is The Healing Force Of The Universe / Albert Ayler
ノイズやフリージャズや現代音楽などの、ディスクユニオンだったら全てごちゃまぜにアヴァンギャルドの棚にぶち込まれている音楽の多くは、雑誌やらブログやらでどんな凄い音楽なのか妄想を膨らましている時が一番楽しかったりして、実際聴いてみたらこんなもんか、とかなんだかよくわかんない、とかで期待外れなことが多い。語られ方と実作品との乖離が最も激しいジャンルの内の一つであると言って良いと思うのだが、それもある意味では仕方なく、だってアルバムのタイトルがMusic Is The Healing Force Of The Universeとかだったりするわけだし、実際聴いてみたらいわゆる癒しとは対極にあるような音楽だったりするわけで、そりゃなんか理屈つけて小難しいこと語ってみたくもなる。でもまぁ、大体全てを話半分に適当に聴き流しとくのが最も良いのであって、アイラーのサックスは凄くキャッチーだなぁと思っておけばそれで良い。キャッチーと思わなくても、まぁそれはそれで別に良い。なんか良い感じがしたり、また聴きたくなれば聴けば良い。
最後に、もちろんさん、ありがとうございました。(1969 Impulse!)
Smile from the Streets You Hold / John Frusciante
言わずと知れた元Red hot chili peppersのギタリスト、ジョン・フルシアンテが麻薬中毒の真っ只中だった当時、ドラッグを買う金を得るためにほぼギター弾き語りのみで制作した2ndソロアルバム。レッチリの作品や、ジョンの最近のソロアルバムにあるような洗練された音とは全く違い、一聴すると無茶苦茶なギターの上に何を言ってるか分からない適当な叫び声を乗せただけの曲が並んでいるだけのように感じてしまうかもしれない。しかし、聴き進めていくうちに、根底にあるメロディの美しさや伴奏の良さに気づき、そしてジョンの「歌」がいかに魅力的なものであるかわかるようになっていくはずである。某Pitchforkで0点を付けられたり、ジョン自身も発表したことを後悔している的な発言をしているが、個人的には最高のサイケかつソウルアルバムだと思っている。(1997 Birdman)
面を洗って出直して来い / ガーゼ
はあああいさあせんっっ!すんませんっっっ!って気分になりますよね聴くと。我が日本が世界に誇るハードコアパンクの大御所が放つ怒濤の4th。とにかく激烈なハードコアサウンドが猛スピードで矢継ぎ早に繰り出される様はまるでたくましい日本男児に往復ビンタを喰らっているかのようであります。そんで曲名からも察せられる通り歌詞は完全に説教です。それも飲み屋でクダ巻いてるクソじじい共の愚痴とは全くもってレベルの違うまっすぐでまやかしのない説教です。子供とかが悪さして叱りつけないといけない状況下になったとして、どっかの馬の骨がゴタゴタ抜かすよりもこのアルバム10回ぐらい爆音で聴かせて感想文書かせたほうがよっぽどいい教育になるんじゃあないでしょうかって話です。正直ガーゼの歌詞は小学校の道徳の教科書に載せた方がいいとさえ思います。聴けば聴くほど自分の至らなさに気づいて猛省、そして背筋が伸びます。で、またとんでもないのが、この人たちは年をとるごとに凄まじい音になっていくっつうことです。一心不乱に自らを鍛え上げ、ひたすら精進させる真の漢の姿がここにはあります。
はぁぁあいすんませんっっ!指導!指導!ありがとうございぁしたっっっっっっ!したっっっ!したっっっっっっっっっ!(一礼)(1997 XXX)
無垢な藻類 / トゥラリカ
名古屋で活動するインディーズの3ピースバンド、トゥラリカの3曲入りシングル。音の粒を空間の隅々までに塗りつぶして「あちら側の世界」を目指すのがサイケデリック・ミュージックだとすれば、トゥラリカは最小限の音で「あちら側」を見せてくれるかなり危ないサイケデリックなバンドだと思う。ミニマルで冷徹な演奏にどこにも像を結ばないウィスパーボイスは、ファズギターなど使わずに僕らの身体を痺れさせる。しかも、バンド名の由来となった#1のタイトルは「いたずら」である。「いたずら」で「あちら側」に連れて行かれるなんて、たまったものじゃない。(2010 iscollagecollective)
真冬物語 / 堀込泰行(キリンジ)・畠山美由紀・ハナレグミ
さて、真冬の到来である。ここで、一部の音楽好きの間では王道であろう一曲(シングル)を紹介したい。というよりは、「やっぱり冬はこの曲だよね。」という確認作業に近いかもしれない。堀込泰行(キリンジ)・畠山美由紀・ハナレグミの三人が歌う「真冬物語」。作詞は松本隆で、作曲は松任谷由実、プロデュースは冨田恵一という錚々たるメンバーだ。冨田ラボファミリーが作り出す音楽。言ってしまえば、名曲でないはずがないのだ。調べてみると発売は2004年1月1日。2013年がすぐそこに迫っていることを考えると、もう9年も前のことである。確かに歌詞の中の「フリース」が9年の歳月を感じさせる。
私としてはなぜかキリンジの「グッデイ・グッバイ」を思い出させる曲である。やはり冨田恵一プロデュースだからだろうか。この件に関しては、是非皆様からご意見を伺いたい。
冬の名曲として今ひとつ話題にならないのが、不思議なほどの名曲。まだ聴いたことがない方には、是非この冬のプレイリストに加えて欲しい一曲だ。(2004 EMI)
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